大判例

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高松高等裁判所 昭和27年(ネ)152号 判決

控訴人は被控訴人に対し金百万円及びこれに対する昭和二十四年六月十一日より完済まで年五分の割合による金員の支払を命ずる。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分しその一を控訴人その余を被控訴人の負担とする。

本判決は被控訴人勝訴の部分に限り被控訴人において金三十万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は「原判決中被控訴人勝訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は

被控訴代理人において

一、本件損害賠償の請求は控訴人が被控訴人に対する本件船舶引渡の義務の不履行を原因とするものではなく、被控訴人が自己所有の本件船舶を本件強制執行当時において滅失させ所有権を侵害した不法行為を原因とするものである。

二、仮りに控訴人主張の如く昭和十八年九月三十日本件船舶を訴外森崎計一に売渡した事実があつたとしても、その所有権移転登記のない以上これを以て被控訴人に対抗できない。

と述べ、

控訴代理人において

一、右不法行為の原因事実は否認する。

二、控訴人が本件船舶を訴外森崎計一に売渡したこと並びに右売買を原因とする所有権移転の登記手続を経ていないことは争わない。

三、仮りに控訴人が被控訴人に本件損害賠償の義務があるとしても、その数額は昭和十八年九月三十日訴外森崎計一に売渡した当時の価格を以て足るから被控訴人の本訴請求は不当である。

と述べた外は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

別紙目録<省略>記載の阿部丸が被控訴人の所有に属していたこと被控訴人主張の如き競売手続を経て昭和十八年三月四日訴外本城貞雄が右阿部丸を競落し、その所有権を取得しその登記を了したこと、さらに被控訴人主張の如き競売手続をたどつて中島宇一の家督を相続した控訴人において昭和十九年五月十二日右阿部丸を競落してその所有権取得の登記を了したこと、昭和十九年七月六日長崎控訴院において被控訴人より控訴人訴外本城貞雄外二名に対する船舶(右阿部丸)所有権確認等請求控訴事件につき「別紙目録記載の船舶(阿部丸)が被控訴人(阿部高一)の所有なることを確認する。控訴人(中島昭三)は右被控訴人に対し右船舶につき、福岡区裁判所昭和十九年五月十二日受付第六三号を以てなした競落に因る所有権取得の登記の抹消登記手続をなし、且つ該船舶を引渡せよ」という被控訴人勝訴の判決が確定したこと、被控訴人が昭和二十三年六月十九日右阿部丸に対し強制執行をなしたことはいずれも当事者間に争がない。被控訴人は控訴人において右阿部丸を他に処分して滅失させたのは被控訴人の所有権侵害による不法行為であると主張し、控訴人はこれを否定するから、先ずこの点につき判断する。右争ない事実に成立に争ない甲第一ないし第三号証を綜合すれば、控訴人の先代中島宇一は昭和十八年三月十三日訴外本城貞雄に対する金九万円の貸金債権につき抵当権の実行として、その抵当物件たる本件船舶につき福岡区裁判所に競売の申立をし、その手続進行中同人死亡に因りその家督相続をした控訴人はその地位を承継し、同年八月三十一日同庁より競落許可の決定を受け、昭和十九年五月十二日その所有権取得登記を了したが、この登記前昭和十八年九月三十日右船舶を訴外森崎計一に代金八万八千円で売渡し処分をした。しかし右船舶はもともと被控訴人の所有に属していた当時の昭和十六年七月三日控訴人の先代中島宇一に対する貸金二万五千円の債権の抵当物件であり、債務者たる被控訴人は同年十月二十五日の弁済期に支払をしなかつたため昭和十七年六月二十六日右中島宇一の競売申立により小倉区裁判所において代金十万六千六百円の競買申出をした訴外本城貞雄に競落許可決定が与えられたが、同年十二月二十六日の代金支払期日に同訴外人はその支払をしなかつたので、同庁は重ねて昭和十八年三月四日を代金支払期日に指定したところ、同期日において控訴人から執行裁判所に申出であつた船主たる被控訴人の過失に因る海難のための船舶価格激減を理由とする競落代金減額請求の申出に基づき、競落代金を金九万六百七十五円に減額の決定をして訴外本城貞雄をして該減額代金を支払わしめ同訴外人のための競落に因る本件船舶の所有権取得の登記を了したものであるけれど、かような執行裁判所の減額決定は不当であり、又競売手続のせりうりたる本来の機能を失わしめるものであつて、爾後の競売手続は無効であるから被控訴人はこれを理由に昭和十八年四月訴外本城貞雄控訴人等を相手方として競落物件たる本件船舶が被控訴人の所有に属すること、訴外本城貞雄の右船舶につきなした競落に因る所有権所得登記の抹消登記手続を為すこと並びに控訴人は被控訴人に対し、右船舶に対し競落による所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且つ該船舶を引渡すべきことの訴訟を小倉区裁判所に提起し敗訴したが、控訴審たる長崎控訴院は被控訴人の右主張を容れてその勝訴となり、さらに相手方の上告による大審院においてもその上告は棄却せられて確定し、ここに右船舶が被控訴人の所有に属することは不動となつたことが認められ、右認定を覆すべき資料はない。

次に控訴人が右訴訟の進行中である昭和十八年九月三十日本件船舶を訴外森崎計一に代金八万八千円で売却処分したことは、原審証人水ノ江茂雄の証言によつて成立を認める乙第五号証原審証人中尾省三、同水ノ江茂雄の証言によつて認められる。又その方式及び趣旨により真正なる公文書と認められるにより全部その成立を認めうべき乙第四号証(船舶引渡調書)によれば被控訴人は執行吏高林鷹二郎に委任し、下関市彦島町海土郷岸壁において本件船舶引渡の強制執行をした結果、同船舶の主機補機属具船具帆装類船内造作座板等いずれも存在せず、ただ僅かに残存する外板及び甲板のみの引渡を了したことが認められ、この事実を否定すべき証拠はない。してみると控訴人が前認定のとおり本件船舶の所有権の帰属につき争があり、その左右が定まらない訴訟の係属中にこれを他に処分し、これがためその完全な引渡を不能ならしめたのは被控訴人の所有権を侵害する不法行為であり、これによつて生じた損害を賠償すべき責を免れることはできないものというべきである。

控訴代理人は控訴人が本件船舶を訴外森崎計一に売却処分したのは控訴人が前記競落が有効で自己の所有に属するものであることを確信し、前記長崎控訴院が言渡した控訴人敗訴の判決言渡前になしたものであるから、被控訴人の右船舶につき有する所有権侵害行為につき何らの故意過失がなく、従つて不法行為を構成しない旨抗争するけれども前認定のとおり本件船舶を右の如く処分した当時、その所有権の存否につき訴訟が係属中であつたのであるから右訴訟の結果につき勝訴の確信を有していたと否とに拘わらず、敗訴者である控訴人はその起訴の時より悪意の占有者と看做される。従つて控訴人の右主張は採用できない。さすれば控訴人は被控訴人に対し自己所有にかかる本件船舶の一部を滅失毀損したことに因つて現実に生じた損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。控訴人は仮りに控訴人に不法行為上の責任があるとしても、その不法行為は控訴人が本件船舶を訴外森崎計一に売渡処分をしたときであり、その賠償額もその当時の価格を以て足ると主張するが、前認定のとおり被控訴人から控訴人に対する右船舶所有権確認所有権取得登記の抹消登記手続並びに船舶引渡請求事件において控訴人が本件船舶の占有を認めて争わず、その結果前認定のとおり被控訴人勝訴の判決があつたのであるから控訴人は右確定判決の主文に因つて生じた事実関係に矛盾する主張をなしえない筈であり、被控訴人はその確定判決によつて本件船舶の引渡の執行をして初めて本件船舶の一部滅失毀損があつたことを知つたものといわざるをえない。よつてこの現実の損害は本件船舶の引渡の執行当時において初めて具体化されたものというべきである。従つてその損害額は右引渡執行の時を基準とすべきであるから控訴人の右主張は採用できない。

然らばその損害金はその時の交換価格を標準として算定すべきであり、その後の事情はその不法行為がなかつたならば売却その他の方法により騰貴した価額に相当する利益を確実に取得しえたであろう特別の事情があつて、不法行為当時これを予見し又は予見しえらるべき場合に限り許さるべきであるから、この特別事情の存在を認むべき立証のない本件においてはこれをしんしやくすべきでない。けだし不法行為に基づく損害賠償請求権は損害の発生と同時に金銭賠償債権として確定するものであつて、その後の経済上の著しい物価の変動の如きは債務者の予見しうべき損害とはいえないからである。(従つて被控訴人の本訴提起の日における価格の請求は過当というべきである)よつて右執行当時の損害額につき考えるに原審証人阿部春一、同岡田良一、同中川為次郎、同松浦庄太郎の各証言を綜合すれば、昭和二十三年六月の本件船舶に対する執行当時におけるその価格は少くとも百二十万円であり、被控訴人が本件船舶の引渡の執行に因り引渡を受けた甲板上板の価格は二十万円と認めるを相当とするから、被控訴人が控訴人の前記処分行為に因り被控訴人に与えた現実の損害額は右金百二十万円より二十万円を控除した金百万円を以て相当と認める。

よつて控訴人は被控訴人に対し金百万円及びこれに対する本件訴状が被控訴人に送達せられた日の翌日であること記録上明かな昭和二十四年六月十一日より完済まで年五分の割合による金員を支払うべき義務あるものといわなければならない。よつて被控訴人の本訴請求は右の範囲において正当であつて、その余は失当として排斥を免れない。右判定に符合しない原判決は変更すべきものとし、民事訴訟法第三八六条、第九五条、第九六条、第八九条、第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸友二郎 萩原敏一 呉屋愛永)

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